自ら考え判断し行動できる子どもたち

桐蔭学園中等教育学校 Vol.1

男女共学の新しいスタイルとなり3年目を迎えた桐蔭学園中等教育学校。
アクティブラーニング型授業をベースに、「学力の氷山モデル」に基づく学力観を土台とした教育を実践しています。

学力の氷山モデル「3つの学力」

 桐蔭学園では、2014年の学園創立50周年を機に、新たな教育ビジョン「自ら考え判断し行動できる子どもたち」を策定し、次の50年に向けた教育改革を進めています。

 この教育ビジョンの実現に向けて、桐蔭学園中等教育学校(以下、桐蔭学園)では、2015年にアクティブラーニング(以下、AL)研究の第一人者、京都大学の溝上慎一教授(当時、現・桐蔭学園理事長)を教育顧問として招聘し、積極的にAL型授業を取り入れてきました。その過程でわかってきたのが、「学びに向かう力」の重要性です。

 桐蔭学園では、学力を氷山にたとえ、水面上に出ている部分は「見える学力=知識・技能」、水中のまんなかの部分は、「見えにくい学力=思考力・判断力・表現力等」、水中の一番下に隠れている部分を「見えない学力=学びに向かう力・人間性等」とする「学力の氷山モデル」に基づく学力観を土台に、一番下に隠れている「見えない学力」から育てることに重きをおいて、この「3つの学力」を包括的にとらえて伸ばしています。

 その教育カリキュラムの柱が、次にご紹介する「AL型授業」「探究(未来への扉)」「キャリア教育」です。

全教科で行うAL型授業

 桐蔭学園のAL型授業は、50分を「個⇒協働⇒個」という流れで行っており、生徒が自分自身でしっかりと学ぶ部分と、他者と共有することによって学ぶ部分の両方を大切にしています。

「本校のAL型授業は、例えば授業の冒頭に教師がその日の授業テーマを黒板に書き、それを生徒はノートに書き写します。つぎに、教師がそのテーマについて発問し、生徒はそれに対する自分の考えを書きます。これが『個』の作業です。次に発表などもしながら、個々の意見をクラスメイトと共有していきます。これが『協働』です。そして共有したものをまとめて最終的な自分の考えとしてふり返る『個』の作業で締めくくられます。
 この一連の流れが本校のAL型授業の標準的なスタイルで、全教科共通の考え方です。特に『協働』では、自分の意見を述べたり、クラスメイトの意見を聴いたりする過程で、その日の授業のなかで一番大事な部分に自分で気づいてほしいのです。“はっ”と気づいたことは一生忘れませんから」と玉田副校長は語ります。

 また、AL型授業を始めるにあたり、ノートの取り方や人の話の聴き方、授業での話し方など、学習するうえで基本となる部分を丁寧に指導するのも特長で、生徒全員が同じスタートラインから伸びるための基礎となる部分がシステム化されています。

探究=未来への扉

 次にご紹介するのは「未来への扉」という科目名の探究の授業です。

 2019年度より新たに導入された授業で、1年次から5年次まで週1回行われています。この探究の授業では、情報の集め方、情報の整理の仕方、プレゼンテーション資料の作り方といった基本的なスキルからスタートし、さまざまな角度から分析の仕方、問題解決方法など、社会にでてからも必要とされる力を身につけます。

 探究では、まず自分の興味・関心事と社会の課題との接点をみつけて「課題の設定」をします。次にその課題に対して必要な「情報の収集」を行い、その集めた情報を「整理・分析」し、構造化・可視化して多様な視点からさらに探究し、論文やレポートにまとめ、他者に発表します。そして、この探究プロセスで大事なところが、つぎの「ふり返り」です。

 発表して終わりではなく、今回の探究では何ができて、何ができなかったかをふり返ることが重要です。自分の今の実力を認識し、探究の成果や課題を明らかにすることで、新たな課題が見えてきます。この一連の探究プロセスを繰り返すことで、自然と自ら学び続ける力が身についていきます。

自己肯定感を醸成する新しいキャリア教育

 桐蔭学園では、朝のホームルームで1分間スピーチの時間があります。テーマは、「将来の夢」や「私の宝物」など時々によって変わりますが、聴き手は、しっかりと話者の方を向いて頷きながら耳を傾けることになっています。これが「傾聴」です。そして発表後は、必ず全員で大きな拍手を送ります。これによってスピーチした生徒は、みんなに認められたという安心感を得ることができます。これが「承認」です。

 この「傾聴」と「承認」の小さな積み重ねが、主体的に学び続ける力に大きくかかわる「自己肯定感」を醸成していきます。桐蔭学園では、これまでのような、大学や職業を考えるキャリア教育ではなく、他者と共存し、お互いを高め合いながら成長するための基礎的なキャリア教育が重要だと考えています。

 「30年後には新しい職業がたくさん生まれているでしょう。しかし、どんな時代の、どんな世の中になっても、社会で必要とされるためには、人間としての汎用的な力をつけることが望ましいのではないかと思います。これからは『どんな仕事に就きたいですか?』というキャリア教育では意味がないのです」と玉田副校長は語ります。

また、桐蔭学園ではアフタースクール(放課後のさまざまな活動)もキャリア教育の要素を持ったユニークな取り組みです。

 その柱となる空間の1つが、グローバルラウンジです。英語を使ってネイティブの先生や友人たちとコミュニケーションをとることのできるスタイリッシュな空間です。生徒たちがラウンジスタッフとなり、イベントを企画・運営しており、英語のスキル向上はもちろん、世界中の人とつながり、理解を深めることができます。

 これまでにない新しい教育を実践する桐蔭学園。その改革は順調に展開しており、3学年そろったエネルギッシュな生徒たちが、いきいきとした学校生活を送っています。

School Information

所在地:
神奈川県横浜市青葉区鉄町1614番地
アクセス:
東急田園都市線「青葉台」「あざみ野」「市が尾」バス10分~ 20分
小田急線「柿生」「新百合ヶ丘」バス10分~ 20分
TEL:
045-971-1411